昔書いたやつ
貴方はいずレオで『神様なんていない』をお題にして140文字SSを書いてください。
shindanmaker.com/375517
(神様なんていない→?)
(140字→?)
ふっと意識が浮上する。ああ寝ていたのかと、ぼんやりしたままの頭で考えた。
薄暗い室内で、時計の針が光り、すでに音符が踊る白い楽譜があちらこちらでぼうっと浮かび上がっていた。
ガラス窓の向こうの橙の空は夕闇に染まりかけている。
そこまで長く眠っていたわけではないらしい。帰宅する準備をして、レッスン室の鍵をかけて、その鍵を返却するくらいの時間はあるだろう。あまり遅くなると、説教が多いと噂のあの教師に捕まる。それは極力避けておきたかった。
もぞもぞと動いたことで、当然預けられた身体も揺さぶられる。瞬間強く香った懐かしい彼特有の匂いで、ようやく今まで自分にかかっていた自分以外の重みに気づく。むしろなぜ今まで気づかなかったのか、自分でも不思議だった。
それが、あまりにも慣れた香りだったから。なんてそんな。甘い理由が思い浮かんでしまうが、そんなはずはないと無視をした。
自分たちにとってこれはよくあったことだった。
作曲に没頭して自身の生活を疎かにしてしまう「王さま」こと月永レオは、ぷつりと糸が切れた人形のように、こうして静かに、ただただ眠りにつくことがあった。
頻度としては、普通の人間と比べると相当に少ないほうで。それでも利き腕を休めて、睡眠をとってくれるだけましだと思えた。それさえも怠る時期があったから。
こうして肩に頭を預けて寄りかかり、力を完全に抜いてしまうのは自分相手のみでだったと把握している。
王さま。俺の王さま。
久しぶりに意識して感じる彼の重さは、記憶にあるよりほんの少しだけ軽く感じた。
こいつ、またしばらく食事をしていないなと思わず眉を寄せる。
起きたら説教してやるから…なんてすよすよとのんきに眠る穏やかな横顔に、心の中で呟いてやった。
変わらないものだ。寝顔だけは昔と今とで変わらない。なにもなかったのだと錯覚してしまう程度には。
そうだったらどんなによかったか。
彼はその身体が限界を迎えるまで利き手を止めることはない。気絶して、特にあの新米騎士に叱られ小言をぶつけられて、それでもやっぱり彼は無茶を続ける。
もう学園でのあの戦いは終わったというのに。まるで、彼だけが未だ過去に捕らわれてしまったままだと示すように。
きっと彼はそれに気づいていない。皇帝はきっと気づいているが、言うつもりはないらしい。言わないでほしい。
自分を含めた周囲が彼に振り回されているようだが、彼も彼の才能に振り回されている。きっと彼は自身の才能を理解している。理解しているから選んだのだ。
アイドルになりたいという夢を叶えるために、この学園に入ってきたというのに、この学園で起こったなにもかもで彼は夢を捨てて才能で妥協した。
才能。神に与えられた彼だけのギフト。
昔、彼は自分のことを神そのものだと勘違いし、自分も彼を神のようであると勝手に信仰心さえ抱いていた。
彼はただの人間だったと、今は分かっている。
ただの人間なのだから、もっとゆっくり…そう。自分たちと肩を並べて歩けばいいのに、彼はどんどん先へ走って行く。振り返りもせず、進むために失ったものに気づきもせず。
才能のための犠牲なんて聞こえのいい。
しかし。もし、今の彼がこうあることが彼の過ち故だとしても、それは彼一人の罪じゃない。
信じて、信じて、信じて、確かに彼が変わっていく兆候はあったはずなのに、裏切られることを恐れて知らないふりをしていた。彼を同じく神様なのだと信じて手遅れになるまで彼自身を見ようともしなかった自分も共犯者だった。
「月永レオ」が音を立てて崩れてしまった瞬間、確かにそう、理解した。思い出す。信じていたものが、唯一だと焦がれていたものを喪ってしまったあの感覚を。
きっとあの瞬間、泉の神様はしんだ。
だからもうここに神様はいない。
神様はいないけれど、月永レオはここにいる。
あの頃とは違う。未だに割り切ることはできないけれど、それでも手離せないでいる月永レオはここにいる。
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